原作・監修を手掛ける赤川次郎先生×赤川次郎作品の開発を手掛ける金沢十三男
第2弾 DSと「月の光」-3

『赤川次郎ミステリー 月の光 —沈める鐘の殺人—』発売決定記念、「スペシャル対談」が実現!
その模様を3回にわたってお届けします。※いよいよ3回目です。

—今回「学園七不思議」というシステムがあるのですが、実際に先生の学校にはそういう話はありました?

赤川 男子校だったのでそういったことは特になかったような気がしますね。汚れているばっかりで(笑)

—今回のような女子高だと、やはり広まりやすいとかあるのですかね。

赤川 そうですね。そういう世界は嫌いではないですね。
ただ気持ちの悪いものが苦手なので、単純に化け物とかが出てくる話ではなくて、ホラーでも、背景に何か素敵なロマンがあってほしいと思いますね。好みはいろいろあると思いますが。
金沢さんもそういったところはよく理解してくれていると思います。

—そういった赤川さんの思いを基に「七不思議」を作っていったのですか。

金沢 そうですね。そこまでは考えていなかったですけれども(笑)「七不思議」って結構他愛のないものだったりするじゃないですか。白い服を着た女の子が廊下を横切ったとか。まさか、ゴジラが出てくるとか、そういうことではないので(笑)
あれは夢だったのかそうじゃないのか、それはいるのかいないのか、とかそういうところはロマンかもしれないですね。
僕も中学校のころはあったんですよ。音楽室のピアノがひとりでに鳴るとか、結局本当にあるのかないのか分からないけれども、そういう噂自体が怖いという、今回の「七不思議」はそういうものをみんなで出し合って作りましたね。

赤川 怖がるのを面白がるような年頃でもありますからね。
いわゆるジャパニーズホラーにも色々ありますけれど、あれは怖いと思わないんだよね(笑)それは突然何か出てきたらビックリしますけど。怖いというのとはちょっと違うと思うんです。

金沢 そういうのは「お化け屋敷」的な考え方ですよね。

赤川 むしろ怖いのは人間であって。人間関係からくる怖さっていうのがいちばん怖いと思いますね。昔の「四谷怪談」とか「累ヶ淵」とかそういうのはやはり色々な人間の関係から生まれてくる怖さであって、幽霊になって出てきたりするのは、その中の被害者なんで、哀れさがありますよね。ただ怖がらせる、っていうのは日本的な感覚ではないと思いますね。ホラーを書いていてもそういうものにはしたくないな、というのはあります。気が弱いから自分で書いていて気持ちが悪くなっちゃうし(笑)

—そういう意味で、この「沈める鐘の殺人」にもそいういう怖さがあるという。

赤川 そうですね。そうでないと繰り返し読んでいただくだけの魅力もないと思いますからね。たとえばアガサ・クリスティなんか犯人が分かっていて、トリックも分かっているのだけれど、段取りの上手さとか、人間関係の微妙なあやを非常に上手く書ききってあると思いますね。だから何回読んでも面白い。そういうものを目指したいと思いますね。

—今回のシナリオの量はどのくらいあるんですか。

金沢 量ったことはないですが多いですよ。開発時間のほとんどはシナリオに費やしていましたから。基本的にシナリオが固まらないと先に進まないんですよ。

—何人で書いているのですか。

金沢 プロットが固まった後は、基本的には一人が書いて、そこから数人でそのシナリオを書き分けて、分析とか検証をして最後はまた一人が仕上げる、という形です。

—海外では発売しないのですか。

金沢 海外ではあまりゲームで「文字を読む」という習慣がないんですよ。
それにこれだけの量を翻訳していると大変ですからね(笑)
ヨーロッパでは、最低でも5ヶ国語に訳さないといけないので、気が遠くなっちゃいますよね。

赤川 このシナリオの量は本にしたら多分何十冊にもなりそうですからね。

—もともと原作自体はどのくらいの期間で書かれたのですか。

赤川 そうですね。普段は連載が多いので期間的にいうと、月刊誌に書けば1年くらいになると思いますね。
書き下ろしでやろうと思っても、合間に連載物が入ってきたりするので、始めから最後まで一つの作品だけを一気に書く、ということは不可能に近いですね。毎月書いている枚数から言えば、多分ふた月もあれば書けるでしょうけれど。やりかけの書下ろしが今も3冊分くらいあるので(笑)

—こういった小説を書かれる時ってアイデアはどこから持ってきたりするのですか。

赤川 締め切りが来ないと考えない(笑)

—締め切りが迫るとポンと出てくるんですか(笑)

赤川 (笑)やはり「やりたいこと」、というのは結構あるから、今度はこれやろうかな、というのを雑誌の対象読者を考えながら決めることが多いですかね。

—どの本を読んでも先生の本はすごく読みやすい、と思うのですが。

赤川 それは心掛けていますね。あまり余計なことを書かないようにとか。僕はエンターテイメントの小説は、夢中になって一晩で読み終わるくらいの長さでないと本当はいけないと思うんですね。最近はパソコンで書く人が多いから小説もどんどん長くなってきて。新人の作家の方でも上・下巻は普通ですから。みんな1000枚くらい平気で書いてますからね。あんまり長いと大変です。
エンターテイメントの小説は、読者の貴重な時間をとっているわけだから、あんまり無駄なことは書かなくていいんじゃないかと思います(笑)ただ、ミステリーにはその細かい説明とか無駄な部分を楽しむというところはありますからね。ただその無駄があまりに本筋と関係ないものだったりするとちょっといらないんじゃないかと思いますけどね。

—この原作も一晩で読んでしまいました。

赤川 僕の本で一晩で読めないものはないと思います(笑)
書いていて自分が楽しくないとね。

—ご自分の作品がゲームになることについて、何かご感想ありますか。

赤川 映画化なんかでもそうですが、そうなった時点でそれは自分の手を離れたと思わないといけないですね。あまり作り手の方のオリジナリティーに干渉してしまっても、という気がするので。そこはもう、新しくできたものを楽しむ、という考えですね。ゲームとかは、原作者としては思いもしない展開が待っていたりするので、こういう話もあるんだなという面白さを感じるようにしてます。そこは原作者としても楽しいところですよね。

—DSで発売されることで、前よりも手に取ってくれるユーザーが増えたと思うのですがいかがですか。

金沢 作った人間としては、一人でも多くの人に遊んでもらいたいと思っていますので。今回DSでそういう方が増えているのであればとてもありがたいですね。僕の母でもDSでゲームやっていますからね。

—最新作はあるのですか。

金沢 中野Pに「早く次の原作を選んでくれ」と言われていますけどね(笑)
僕の中では「月の光」で1回ピリオドを打っちゃった部分があるのですが、最近になってインディ・ジョーンズのように、20年前に作られた映画の続編が公開されているのを見ると、「赤川シリーズ」の復活もあるのかな、とは思っています。
ただ原作は出会いなので、それと出会ってなおかつユーザーが望まれているのであれば、というところでしょうか。

—次回作、是非期待しています。
最後になりますが、これから「月の光」を遊ばれる方についてメッセージをお願いします。


金沢 やはり元々「月の光」のDS化は作り手として望んでいたので、そういう意味では今回とても感慨深く思います。「夜想曲」を楽しんでくれた方は、内容的にはそれを超えるべく作った「月の光」を楽しんでくれればこんなに嬉しいことはないので。
今回僕も一ファンとして発売を楽しみにしています。

赤川 もともと「鐘が湖底で鳴っている」という伝説から作られた物語を、こうしてゲームになって実際に絵と音で楽しめるということは。とても嬉しいですね。今度はどんな風になっているの、とかね。音とかもどんどんよくなっている。そういう進歩は、ゲームをやっていても快適に感じられるような時代になってきたなという気がします。今回も楽しみですね。