1.『ディシプリン』のなかの自由

左尾
飯田さん、何があったんですか?
飯田
何があったって、何が?
左尾
(笑)。
飯田さんがつくってきたゲームを振り返ると、
まず『アクアノートの休日』で
自由に海のなかを探索して・・・。
飯田
はい。
左尾
『太陽のしっぽ』で大地を・・・。
飯田
自由に駆け巡って・・・。
左尾
『巨人のドシン』で・・・。
飯田
自由に大地を上げ下げして・・・。
左尾
そのように、これまでずっと
自由を堪能できるソフトをつくってきましたよね。
ところが今回の『ディシプリン』は
自由を感じられないような狭い場所が舞台じゃないですか。
それはいったいどうしてなんですか?
飯田
どうしてなんでしょうね。
自由がどこにあるんだということですよね。
左尾
これまでの作品とは
まったく正反対ですし。
飯田
うん。正反対から 「自由」を考えるということがひとつありますね。
だから、閉じ込められているところにも
自由があるんだろうかというのが出発点なんです。
左尾
閉じ込められてるところにも自由・・・?
飯田
これまで「自由」をテーマに3本つくってきて、
そのあとにいろんな節目を経験してきて
改めてゲームをつくることになったとき、
「自由」を別の角度から考えたいと思って
極端な場所をあえて選んだんですね。
左尾
そもそも飯田さんは、
狭いところはあまり好きじゃないんじゃないですか?
飯田
それはあるかも。
左尾
「ゲームは好きだけど、ダンジョンは嫌い」
という話をしてましたよね。
だから、もともと狭いところは好きじゃないんですよね。
飯田
そう。好きじゃない(笑)。
左尾
好きじゃないのに(笑)。
飯田
でもね・・・。
左尾
あえて、究極の不自由さを描こうと・・・。
飯田
いや、不自由さを描くというよりは・・・。
左尾
不自由のなかの自由を?
飯田
うん。結論を言うと、 「不自由でも自由だな」ということなんですよ。
空間とか物理的に不自由な状況を強いられたとしても、
そこに人がいる限り、自由というのはあるんじゃないかと。
左尾
なるほど。つまり人との絡みで
自由を描こうとしたんですね。
飯田
そうそう。
たとえば『太陽のしっぽ』で
どこまでも行けるというようなことと
今回の『ディシプリン』で
どこまでもテキストが続くということは
僕のなかではそれほど違わないんです。
北の寒い土地に行ったら雪景色があるように、
人がいたら、それぞれに人の世界があると。
左尾
つまり人それぞれの人生があるわけで。
飯田
そうそう。
左尾
その人生の物語を知ることによって、
主人公の世界が広がっていくということなんですね。
飯田
人にはそれぞれの世界があるんですね。
左尾
なるほど。
飯田
だから、趣がまったく違ったものになったから、
「どうしちゃったんですか?」とよく聞かれるんですけど。
左尾
ですよね(笑)。
飯田
僕にとってはグラフィックデータの代わりに
テキストデータがあるみたいなもので
僕自身がそんなに変わっちゃったわけじゃないんです。
左尾
つくる姿勢は変わってないんですね。
飯田
変わってないです。
ただ、年月を経て、
僕自身も少し変わったところもあるから、
角が取れたと思いますね。
左尾
角が取れたんですか?(笑)
飯田
あんなものをつくっておきながらね(笑)。
左尾
『巨人のドシン』を出してから7年ですよね。
飯田
7年たっちゃいましたね。
左尾
飯田さんはこの7年間、
いったい何をしてたんですか?
飯田
ゲームをつくろうとはしてたんですよ。
でも、僕がつくろうとしていたのは
どうもゲームじゃなかったんです。
左尾
たとえばどんなものをつくろうと?
飯田
たとえば、月の上でひとりぼっちになってしまい、
地球をジーッと見るゲームとか・・・。
左尾
地球をジーッと見るゲーム?
飯田
ロケットで月に行った宇宙飛行士の話なんですよ。
で、地球をずーっと見ていると、
グーグルアースみたいにどんどん地球が拡大していって、
拡大していった果てには、
ゲームをしている自分の頭が見えると。
左尾
・・・はい。
飯田
で、ゲームを遊んでいる自分に向かって
「助けて!」と言うような。
「ひとりで寂しいよ」みたいなメッセージを放つような
そんなゲームをつくりたかったんですけど。
まあ、これはたとえばの話なんですけどね。
左尾
どのように遊んでいいのか
まったく想像がつきません。
飯田
いまから思うと、それをゲームだと言い切るには、
もうひとつ足りないというかね。
左尾
ゲームにするには難しいですよね。
飯田
難しさはあったんですけど、
そのときに僕がつくりたかったのは、
そういうゲームだったんです。
だから、僕はもうゲームづくりができないと
かたくなに思い込むようになって、これはもうダメだと。
左尾
メだと思いながらも
マーベラスの和田(康宏)さんに出会って
今回のソフトをつくることになったんですよね。
飯田
そうです。
和田さんとは前からちょくちょく会ってはいたんです。
で、会うたびに、映画とかいろんな話をしてたんですけど、
別に仕事の話をしていたわけじゃないんですね。
で、ある日、僕が話した与太話なんですけど、
それを和田さんがまとめメールでくれて。
左尾
どんな話をしたんですか?
飯田
ゲームの話じゃないんですよ。
たとえば「殺し屋1」という映画の、
どのシーンがすごくよかったとか
そんな話をしたんですけど、
それをメールにまとめて送ってくれたんです。
左尾
和田さんにとって
すごく印象深い話だったんでしょうね。
飯田
僕もすごくうれしかったんですよ。
和田さんは、僕の話をちゃんと聞いてくれてたって。
しかもそれをメールまでくれるなんて、
なんか知らないけど本気なんだなと思って。
で、どちらともなく「そろそろやりましょうか」と、
「じゃあ、やりましょうかね」みたいな感じになって。
左尾
まるで理想的な結婚話みたいですね。
デートを重ねているうちに、機が熟してきて、
どちらともなくプロポーズするみたいな。
飯田
そうそう。
左尾
最初から
「ゲームをつくりましょう」から入るのではなくて。
飯田
ではなくって。そういう自然な流れで 『ディシプリン』をつくることになったんです。