2. ディシプリンとは? 贖罪とは?
- 左尾
- そもそもどうしてタイトルに
『ディシプリン』とつけることにしたんですか?
- 飯田
- 『ディシプリン』という言葉そのものは、
キング・クリムゾンのアルバムのタイトルになっていたり、
ジャネット・ジャクソンのアルバムのタイトルになっていたり、
あとはちょっとマニアックになりますけど
スロッピング・グリッスルという
イギリスのノイズバンドの代表曲になっていたり、
ナイン・インチ・ネイルズというバンドの曲だったり、
いろんなミュージシャンたちが
「ディシプリン」という歌をうたってるんですよ。
もちろん歌の内容や曲は全部違うんですけど・・・。
まあ『スーパーマリオ』みたいなもんですよ。
- 左尾
- 『スーパーマリオ』?(笑)
- 飯田
- 何て言うか、ディシプリン業界において、
「ディシプリン」を名乗るということは、
ひじょうに勇気がいるというか・・・。
- 左尾
- ああ、なるほど。
アクションゲーム業界においては
なかなか『マリオ』のゲームをつくれないみたいな。
- 飯田
- そうそう。
誰でもカンタンに手を出せるもんじゃないんです。
- 左尾
- だから、そうとう覚悟を決めて
腹もくくってやる必要があると。
- 飯田
- うん。ディシプリン業界という
見えざる世界にあって、
僕はそこの一員になったわけですけど、
いよいよ名乗れる日が来たなと思ってるんです。
- 左尾
- 7年も休んだし、ここで勝負だと。
- 飯田
- 休んだし、風向きもよくなってきてるし、
「いましかないな」と思ったんですね。
- 左尾
- でも、ロックに詳しい人はさておき
一般の人にとって、「ディシプリン」という言葉は
あまり馴染みがないですよね。
- 飯田
- そうですね。
- 左尾
- 僕は、受験のときに
「弟子ぷりぷり訓練する」と覚えたくらいで。
- 飯田
- (笑)
- 左尾
- でも「訓練」という意味ではなくって、
「調教」とかそっちのほうの意味なんですよね。
- 飯田
- 「ディシプリン」には、
いろんな広義の意味があって、そういう多義性が
音楽のいろんな題名に使われる理由だと思うんです。
で、今回、僕らが使った『ディシプリン』には、
「調律帝国の誕生」という
サブタイトルを使っていたことがあって
だから「調律」という意味合いが強いですね。
それに「矯正教育」の意味合いもあって、
映画の「時計じかけのオレンジ」の
イメージなんかもかぶせてるんです。
- 左尾
- なるほど。
- 飯田
- ある人が他者に、自分の考えを押しつける
という意味でもあるんですね。
つまりそれは、ゲーム制作者がプレイヤーに
遊び方や考えを強いるということでもあるし、
その逆もまた、あったりしますよね。
僕らの手のひらで遊んでいるユーザーだったはずなのに、
ユーザー側からも「作業ゲー」とか「クソゲー」とか、
さまざまな圧力をかけてきたりとか・・・。
- 左尾
- (笑)。
つまりゲーム制作者が調教することもあれば
プレイヤー側が調教することもあると。
- 飯田
- ええ。一方通行の関係じゃないんですよ。
調教しているつもりであっても
実は調教されてるみたいな。
それでつくっていくものが
変わっていくようなことも起こって
「ディシプリン」というのは実は、
テレビゲームそのものを語っている言葉でもあるんですね。
- 左尾
- なるほど。
さらにゲームジャンルが「贖罪バンドデシネ」。
これも実にわかりにくいんですが・・・。
- 飯田
- このゲームがジャンルで言えば何ですか?と、
すごく聞かれるんですよ。
でも、説明するのは難しいんです。
最初からRPGをつくろうとか、
アドベンチャーをつくろうとかいう意識ではじめてないから、
できたものをジャンルに当てはめないといけないわけで、
当てはめるとしたらアドベンチャーなのかなという気がするけれど、
それは単に文字が多いという意味でしかなくって、
プレイ感覚で言えばFPS的なことができたり、
あるいは『The Sims』っぽい、
リアルタイムでマネジメントしていく要素もあって、
なんかしっくり来ないんですよね。
- 左尾
- スープをつくったりもしますし(笑)。
- 飯田
- そうそう(笑)。
で、最近のゲーム雑誌とか見てると、
けっこう適当に・・・適当じゃないか(苦笑)、
新しくつくられたようなジャンル名がいっぱい載ってるでしょ。
だから、自由な言い方していいんだと思って
「贖罪バンドデシネ」というジャンルにしたんですよ。
- 左尾
- でも、飯田さんは『巨人のドシン1』をつくったとき
「アゲ・サ・ゲーム南国風」という
わけのわからないようなジャンル名を使いましたよね。
- 飯田
- あ、そうだった(笑)。
- 左尾
- (笑)。
- 飯田
- 僕、昔からそうでしたね(笑)。
- 左尾
- でも「アゲ・サ・ゲーム南国風」は
なんとなくイメージしやすかったんですけど、
「贖罪バンドデシネ」というのは・・・。
- 飯田
- まず「贖罪」というのは、
罪をあがなうことですけど、キリスト教の言葉ですね。
金品を差し出したり、よい行いをすることで
犯した罪をあがなうと。
- 左尾
- 罪滅ぼしなんですね。
- 飯田
- ええ。だから、贖罪をすることで
原罪に対する刑罰は免れることができるんですね。
そこで「よい行いをしましょう」という理屈になるんですけど、
『ディシプリン』に登場する人たちというのは
ああいう場所にいるわけですから、
何らかの罪を犯しているような感じもしなくもない。
で、もちろんプレイヤーのYouも
ある事情があってそこにいるわけですけど、
そこで行われる行為というのは、
罪、原罪をあがなう行為であろうと。
- 左尾
- 教会に行って、
牧師さんに自分が犯した罪を告白したりしますよね。
- 飯田
- 懺悔ね。
- 左尾
- つまりプレイヤーのYouは、
みんなから懺悔を聞くような役回りでもあるんですね。
- 飯田
- そうそう。
ただ、彼らが本当に罪を犯したかどうかはわからなくて。
- 左尾
- ああ、そうか。
- 飯田
- 罪を犯した気になって言ってるだけかもしれないし。
- 左尾
- なるほど。で、「バンドデシネ」というのは?
- 飯田
- フランスのコミックのことなんです。
イラストレーションよりも、少しアーティスティックな
ちょっとがんばってる絵の一連のコミックスのことを
バンドデシネと言うんです。
- 左尾
- なるほど。
つまり、今作のアートワークを担当したフランス人の・・・。
- 飯田
- Lucね。
- 左尾
- パリで知り合った彼の絵に触発されたと
飯田さんのブログに書いてましたよね。
- 飯田
- 書いちゃってますね。
でも若干、妄想が入ってるかも(笑)。
- 左尾
- 妄想?(笑)
まあ、その流れで「バンドデシネ」を
ジャンル名につけたということなんですね。
- 飯田
- 僕、フランスかぶれなので(笑)。
- 左尾
- (笑)