KORG DS-10 スペシャル企画
松武秀樹氏インタビュー:DS-10でシンセサイザーのわくわくする気持ちを味わってほしい

KORGのアナログ・シンセサイザーの銘機「KORG MS-10」をニンテンドーDSに再現した「KORG DS-10」。そのプリセット・サウンドの監修を担ったのが、テクノポッブの代名詞とも言えるYMOサウンドのシンセサイザー・プログラマーとして活躍した松武秀樹氏だ。時代を彩る音を創り続けてきた松武氏が、DS-10上でどのような魅力的なプリセットを提供してくれたのか、またDS-10をどのように楽しめばよいのか、開発プロデューサーの佐野電磁氏とともに語っていただいた。

DS-10に受け継がれたMS-10の思想

松武
いやあ、DS-10はやっぱり黒が似合いますね?。
佐野
やっと完成しましたよ。

写真:松武氏

松武
今のシンセを楽器店で買うとしますよね。そこにはさまざまな楽器の音も含めて、数千の音が入っているわけです。それらはMIDIという規格で作られている。さまざまな楽器の音がそこで定義されているわけです。一方このDS-10は、MS-10というアナログ・シンセの考え方で作られていて、決まった楽器の音とかは入ってない。どんな音を創るかは創り手次第なんですね。
佐野
僕は当時MS-10を実際に持っていて、その素晴らしさに魅了された一人でして。今回はDSの中にシンセを入れたいの一心だけでした。松武さんに関わっていただいたことで、小学生から中学生の頃聞いた音が出てきたときには、本当にすごいなと改めて思いました。できあがった今は、道行く人全員に自慢したいくらい。

写真:松武氏と佐野氏

松武
実はDS-10で再現したMSシリーズのシンセは音楽のわからない人にも売れたんですよ。当時同じような音しか出なかったシンセにパッチングという機能が魅力的だったんです。ここから何か未知の音が生まれてくるんじゃないかという期待感がその人たちにもあったんでしょうね。佐野さんはそのワクワク感をDSに入れたかったんでしょう。
佐野
いやあ?、神様に代弁していただいて光栄です。DS-10がある程度できあがってきたときに、いろいろと音を創っていたんですが、その過程でどうしようもなくなってしまう瞬間があって。わあ?どうしようってね。でも、その困った感じがMS-10を触っているのと同じ感覚だったときに「ああ、これはシンセなんだな」って実感できましたね。

難しく考えずに、まずは音で遊ぶ

写真:松武氏

松武
シンセ本来の使い方は、楽器の音をまねするのではないんですよ。猫の声でもいいんです、波の音でもいい、それを創って満足できる。それでいいんです。DSならそれがこの価格で体験できる。たまたま(笑)鍵盤がついているんで音階も出せる。スキルをつければシーケンスが使えるようになる、音符が読めれば曲が創れるみたいな。でも、DS-10なら、何もなくても曲みたいなモノが創れるんです。結局音楽は感覚ですから。いいじゃないですか、何でもありで(笑)。
佐野
シンセと聞くと知識が必要で、なんだか敷居が高いなぁって感じる人もいると思うんだけど、楽しめればいいんですよ。結果的に楽しめれば、いろんな知識は後から自然と身に入ってきますから。

写真:松武氏と佐野氏

松武
さきほど佐野さんがおっしゃっていた「わあ?どうしよう」という時は、昔は設定を書くしかなかったんですよ。それで後で研究していたんけど、DS-10なら設定を保存して残せる。それを翌日冷静に見て、こうなっていたんだと分析できる。そこがすごいんですよね。
佐野
昔は松武さんのアルバムを聴きながら、「大人は金持ちだから、こんな曲ができるんだ」と自分をごまかしていたんですが、今回はそれはできません。大人と同じ環境をこの中で実現していますから(笑)。

使う人それぞれの楽しみ方で

写真:佐野氏

佐野
面白いのは、DS-10にはソウルが入るんです。松武さんと同じ音色を創ろうとしても、なかなかたどり着けない。でもあるときに突然ブレイクするんですね、あれ、ここかな、みたいな。そのもどかしさがいいんで、ぜひ体験してもらいたい。音楽を創るのも楽しいんですが、音自体を創るのも面白いんだということを知ってもらいたいですね。
松武
自分専用の楽器を作るみたいな感じですか。実はこのDS-10は大初心者から上級者まで楽しめる楽器なんです。だからといって、初心者がいきなりとんでもないところからさわってもわからない。やはりシーケンサーとかソングを組むところとかは、仕組みとかをそれなりに勉強しないとできるものじゃないんで。それで、やっぱりこれできないやになってしまうんじゃつまらない。初心者はまず楽器の音創りとかをやらない方がいいかもしれません。まずは自分の感覚で思ったもの。例えば風の音とかでもいいし。

写真:松武氏

佐野
または無心でとにかくつまみを回してみるとか。別にそれで壊れないですから(笑)。
松武
一方ある程度できる人にとっては、シンセって今流行っている音と似たような音が出せたときの喜びというのもあるんですよ。自分が知っている音に近づける楽しみみたいな。初心者は猫の声を創ってみる。そして、それがどういう風に創られているかを後で調べることでわかってくる。
佐野
いい音に出会える瞬間がでてくるんです。そういうときはランナーズハイみたいな感じになります。で、そのままやり続けちゃう。そしてどんな設定だったか忘れてしまうんです。セーブはまめにしましょうという学習もできるんですね?(笑)。

写真:松武氏

松武
僕にはキャッチフレーズがあってロックはパワー、ジャズはフィーリング、テクノロジーは忍耐だと言っているんです。音創りってそんな面もあるんですよ。DS-10はコンパクトなこの中にMSシリーズのエキスというか、素晴らしさが入っている最高傑作だと思います。昔のMS好きだった人たちは、みんな音楽好きだったんですよ。あの中からまったく新しい音楽を創ろうと思わせてくれるシンセサイザーだったんです。それをゲーム機の中で実現しようとするのは当初無謀だと思ったんですよ(笑)。でも当時を知っている人と今の人で実現しちゃった。発想する理由とか、再現したい欲求とかは今も昔も変わらないと思うんですよ。

DS-10はこう楽しんでほしい!

写真:松武氏と佐野氏

松武
たとえば俳句かなんか作ってみてもいいと思いますね。で、その句にDS-10で一音付けてみる。俳句の世界観というか、自分の感覚を音にするみたいな。そういう意味ではお年寄りにも使ってみてほしいですね。こちらから使い方の提案をするのも大切なんだけど、僕らが思ってもいなかった使い方をしてほしいと思いますね。佐野さんに「参った!」と言わせるような。
佐野
機能が充実しているので、全部を使わなくちゃという強迫観念がでちゃうものなんですよ。それを使わないと馬鹿にされてるような気がするみたいな。逆に使わない勇気もある。これという機能に絞り込んでそれだけで作っちゃうみたいな。そういうのも大切だと思いますね。でもわからなくても使ってみたら「何だこれ 面白いぞ」みたいな機能はてんこもりです。

写真:松武秀樹氏

松武秀樹氏プロフィール
作曲家/音楽プロデューサー/シンセサイザー・プログラマー/ミキサー 1951年生まれ、神奈川県出身。シンセサイザーの黎明期から奏者、プログラマーとして活躍。1978年から1982年にかけてテクノポップユニットYMO のサウンドプログラマーとして参加。数々の名作のレコーディングを行った。1981年にユニットLOGIC SYSTEMを結成。10枚のアルバムをリリースし、2008年7月25日にニューアルバムを発表する。

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