◆ 第3話 ◆
「ニーハオ!我がビューティ★ボーイズ。」
今日も「セレブリティ」のオーナー・美乃達人からのメッセージが、留守番電話に残されていた。
「早速だが、次のレディーがお待ちかねだ。彼女は28歳のOL。ある理由から彼女は、美に人生のすべてを賭けて、もう1度輝こうとしている。しかし、君たちの手にかかれば、どんなレディーも必ずや究極の美へと導いてくれるだろう。今回も頼んだぞ!」
程なくして、キャリアウーマン風の女性・高村直子(益子梨恵)が、期待に満ちた表情でセレブリティのドアを開けた。手にはオーナーからの招待状。
「ようこそ、セレブリティへ!」
西郷山がうやうやしく直子を店内に招き入れる。
「噂に聞いたことがあったの。このサロンは、どんな人でも誰よりも美しくしてくれるって!」
最初からビューティ★ボーイズたちに期待を寄せている直子を目の当たりにして、3人のビューティーコンシェルジュたちのテンションも上がる。早速、直子を囲んでビューティーカウンセリングのゴングが高らかに鳴った!
「私、絶対に負けたくない勝負があるの!」スタートから積極的な直子。
今日、年収2千万円以上の医者や弁護士の男性ばかりが集まるお見合いパーティがあるのだと言う。仕事に疲れたから、結婚して、玉の輿に乗って、ラクして生きられる輝かしい未来を掴みたい!それが彼女の願いだった。
珍しく豪が反発する。「結婚したって、やりがいのある仕事を辞める必要なんかないだろ?」
「嘘の自分で勝ち得た結婚が、上手くいくとは思えないけど…」と、景も口をそろえる。
しかし、涼だけは自信に満ちた笑顔で言った。
「実に合理的な考え方だ。大丈夫、僕の美の方程式で、必ず君を勝利へと導いてあげるよ。」
直子の担当は、あっさりと涼に決まった。
普段から涼を異常なほどライバル視している豪がサブに着くことになってしまう。ただでさえ熱い性格の豪が黙っているはずがない。
「店長、もうサブって制度無くていいんじゃないっすか?意味ないっすよ!」
だが、西郷山は静かな声で豪に言う。
「物事は角度によって見方も感じ方も違う。お前は彼女から何を感じた?考えるんだ、豪。」
一方、フロアでは涼がふわりとハサミを掲げ、突然宙を切り始めた。
涼の手つきはまるでバレエを踊っているかのように美しく、どこからかバイオリンの音色が聴こえてくるようだ。溢れんばかりの美の知識から、彼女に合わせたイメージを完璧に紡ぎだす・・・そう!これこそが涼の得意技“カッティングエチュード”だ!
まさに練習曲のようになめらかに宙を滑るハサミ。計算しつくされた美の方程式が紡ぎ出されていく姿に、うっとりと酔いしれる。その時ふいに、涼の手が止まった。
「さぁ、目を覚ますんだ!眠れる森の美女よ!」
涼の声を合図に、直子の髪の上を優雅に流れるハサミ。ブローする手つきさえも華やかで気品に満ちている。やがて出来上がったヘアスタイルは「どんな男も結婚したいと思うようなお嬢様風」。
完璧に直子のオーダー通りのスタイルだ。誰もがそう納得した次の瞬間!
直子の表情はみるみる歪み、「最低・・・・」低く一言そう呟いた途端、あろうことかセットした髪を見る影も無いほどグシャグシャにしてしまった。
「何するんだ!君が望んだ通りにしてやっただろう!」激しく怒る涼。
「今すぐやり直して!嫌なものは嫌なの!」
張り詰めた空気。涼はハサミを投げ出すようにフロアを去った。
まさか、今まで完璧だった、涼の美の方程式にミスがあったのか?
それとも、直子の心に変化があったのか?
そして、西郷山は涼に言う。
「お前には、本当は何も見えていないんじゃないのか?」
真実の美の答えとは・・・・・・・