◆ 第10話 ◆
景のハサミを隠したという近藤に、ビューティ★ボーイズたちは詰め寄る。
「近ちゃん、僕のハサミを返してくれる?」
「それは出来ないわ。返したくないのよ!」
明らかに様子のおかしい近藤に、ビューティ★ボーイズたちは疑いの視線を向ける。
近ちゃんは、お婆ちゃんをかばっているのだと。
それを察した景がやさしく言う。
「近ちゃんは、お婆ちゃんをキレイにしてあげたいんでしょう?だったら・・・」
「違うわよ!お婆ちゃんは、キレイになりたくないんじゃなくて、ただ笑顔でいたかっただけなのよ!」
頑な近ちゃんに、豪も言った。
「でも、キレイになれば、自然に笑顔になるだろ?」
「そんなの、本当の笑顔じゃないもの!」
いつにない、近藤の強い物言いに静まり返るフロア。俯いたまま黙り込んでいた静乃が、ゆっくりとその静寂を破った。
「近ちゃん、もういいのよ。ハサミを隠したのは私です。」
お婆ちゃんの手には、確かに景のハサミがあった。
ここに来て久し振りに笑って、みんなの笑顔を見て、ずっとこのセレブリティにいたくて、そんなことをしてしまったのだと静乃は言う。
先ほどよりも、ずっと小さくなって、背中を丸めて、お婆ちゃんは頭を下げた。
「みなさん、すいません。私がいたら、ご迷惑をお掛けするだけなので帰ります。」
フロアを抜け、遠ざかるお婆ちゃんの小さな足音。その姿を見守るビューティ★ボーイズ。
「お婆ちゃん!それでいいの?また笑えなくなってもいいの?」
突然の声に振り向く静乃。近藤の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「せっかく笑えたのに、その笑顔どうしてまた捨てちゃうの!
ここにいて楽しかったんでしょ!一緒に笑っていたかったんでしょ!」
西郷山も黙って近藤を見つめている。
「お婆ちゃんが笑ってくれないと、あたしたち、お婆ちゃんをキレイにすることが出来ないじゃない!」
近藤の一生懸命な言葉に、静乃は少し考え、はにかみながら言った。
「こんな私ですが、私に・・・私に笑顔をくれますか?」
ビューティ★ボーイズたちは、さっそく準備にとりかかった。鏡の前に座るお婆ちゃんも嬉しそうだ。
改めて景がハサミを取り出し、目を閉じる。全身の力を抜くように深く息を吐いた。
いよいよ、景の心眼斬りが始まる!
フロア全体が、期待を含んだ緊迫の空気になったその時・・・・
「あのぉ〜。」
間の抜けたお婆ちゃんの声で、その空気は破られたのだった。
「出でよ、美の女神よ!」
西郷山の高らかな声と共に、華々しくカーテンが開く!しかし、中から現れた静乃は、髪こそ少し整ったものの、来た時とほとんど変わらない姿だった。
メイクもネイルも施されていない。もちろん洋服もそのまま。ビューティ★ボーイズたちは言う。
「なんでだよ、婆ちゃん。来た時と変わんないじゃん。」
「いいえ、あなたたちは、私の心に最高の美を施してくれました。」
そう言って静乃は、とびっきりの笑顔を見せた。
「だから今、私は最高にキレイなんです!」
ボーイズたちからも、自然と笑みがこぼれた。そんなお婆ちゃんに、近藤が近づく。
「俺が一生、お前をキレイでいさせてやる。 プロポーズの言葉そうだったわよね?」
近藤は、お婆ちゃんの首にそっとスカーフを巻いた。それは、淡い若草色に染められて美しく生まれ変わった、あの古びた風呂敷だった。
近藤からの突然の贈物に、より一層輝いた笑顔をまとい、お婆ちゃんはセレブリティから旅立って行ったのだった
今日も無事に仕事を終え、店長室で一安心している西郷山。
しかし、オーナーからのメッセージに、冷静な西郷山の顔が曇った。
「例の件だが、遂にその時期が来た。 ビューティ★ボーイズは解散だ・・・・」