◆ 第13話 ◆
「今日限りでビューティ★ボーイズは解散だ!」
西郷山に、はっきりとそう宣言されてしまったビューティ★ボーイズたち。
しかし、彼らはなんと控え室でのんきに“ババ抜き”を始めたのだった!
みどりとあおいの淋しげな表情を思うと、どうしてもデイヴィッドが勝ったとは思えない。
「あの子たち、本当はお互い勝ちたいなんて思ってないはずよ。」と近藤がつぶやいた。
景のカードを引いて、豪が一番であがる。続いて塁が。涼、潤、近藤と次々にあがっていく。
しかし、最後に残った景も2枚のエースを出してあがってしまった。
「どういうこと?」潤が怪訝そうに聞く。ババ抜きで全員が勝ってしまったのだ。
「あ!」景が小さく声を上げ、ポケットからおずおずとジョーカーを出した。
最初からババが入っていなかったのだ。一気に気が抜けるボーイズたち。
「でも、楽しかったじゃん。誰も勝つことなく。誰も負けることなく。」塁の言葉に、潤が続く。
「そうだよ。勝つことより大事なもの。笑顔であの2人を送り出すこと。」
今までいろんなお客様が来て、いろんなことがあったけど、みんな最後には笑顔でこのセレブリティから旅立って行った。それがビューティ★ボーイズたちの誇りだった。
景が何かを思いついたように、みんなの顔を見ながら言う。
「勝負はまだ終わってない。俺の言うとおりにしてくれるか?」
フロアで、みどりの髪をカットしようとしているデイヴィッドの前に、ビューティ★ボーイズたちが立ちはだかった。
「もう一度だけ、俺たちと勝負してくれ!」
そう言った途端、あろうことがボーイズたちはその場に全員土下座したのだった。
「そこまでするってことは、よっぽど自信があるってことだな。」
デイヴィッドは鼻で笑って、ボーイズたちの申し入れを受けた。ただし、担当チェンジをし、ボーイズたちがあおいを担当することが条件に出された。
「出でよ!我らが美の女神よ!」
西郷山の声と同時に、フロアのカーテンが開き、きらびやかな光の中、白いシンプルなワンピースに身を包んだみどりが現れた。ナチュラルなスタイルが、みどりにとても似合っている。
「どうだ。完璧だろ?さぁ、お前らの自信作を見せてもらおうか!」
ボーイズたちをバカにしたようなデイヴィッドのセリフ。固唾を飲むみどり。
いよいよフロアのカーテンが開き、あおいが現れた!
「!!!!」
みどり、デイヴィッド、西郷山が驚きのあまり目を見開いて、しばし言葉を失う。
なんと、あおいはみどりとまったく同じスタイルをしていたのだ!
髪も服もメイクもネイルも、上から下まで全部みどりと同じ。
「呆れたな!どんな手で来るのかと思ったら、俺の真似しただけじゃないか!」
完全に見下したようにデイヴィッドが言った。みどりもあおいも怒りが収まらない。
「どういうこと!?なんであおいと同じなの!」
「私だって、みどりと一緒なんて冗談じゃないわ!」
「同じ格好をしたのは何年ぶり?」
困惑する2人に、やさしい笑顔で景が聞く。
「・・・・10年ぶり。」小さな声でみどりが答えた。
「君たちは明日からまた違う格好をして、別々の道を歩んでいくだろう。だけど、知ってほしい。
美は勝ち負けなんかじゃない。僕らはそれを君たちに、そして君にも伝えたかった。」
景の視線の先には、デイヴィッドがいた。
「ごめんね、あおい。私本当はあおいに勝っても全然嬉しくなんかなかった。」
「私だって。」
みどりとあおいはお互いにギュッと抱き締め合って、子どものように泣きじゃくる。
その手には、おそろいのあの指輪が光っていた。
「デイヴィッド、君はまだ完璧なコンシェルジュではない。」
西郷山は、厳しい口調でそう言った。反論しようとするデイヴィッドの体を無理やり壁に向かせ、みどりとあおいをシャッフルする西郷山。
「さぁ、お姉さんはどっちだ?わかるか、デイヴィッド?」
まったく見当がつかない様子のデイヴィッドを横目に、ボーイズたちは顔を見合わせ、
「せーの、こっち!」全員が間違うことなく、みどりを指差す。西郷山にも思わず笑みがこぼれた。
「その美しさよ、永遠なれ!」
仲良く手をつないで、心までひとつになったみどりとあおいが、セレブリティのドアを開け、旅立って行った。キラキラとした笑顔も一緒にまとって・・・・。
しかし、2人を無事笑顔で送り出したボーイズたちに、西郷山は神妙な面持ちで言った。
「お前たち、よく頑張ったな。ビューティ★ボーイズは、今日限りで解散だ!」
誰もが耳を疑った。ボーイズたちは勝ち負けを超えて、笑顔で2人を送り出したはずなのに!
「ごきげんうるわしゅう。我がビューティ★ボーイズ。」
その時、フロアに突然声が響き渡った。間違いない、オーナーだ!
「君たちは、もうここで学ぶべきことはない。これからは次のステップへと移ってもらう。」
状況が飲み込めず、ぽかんとしているボーイズたちをよそに、オーナーの声は続く。
豪は北京へ、涼はスペイン、塁はアルジェリア、潤はナイジェリア、近藤はドミニカ共和国。そして景はハリウッドへ。
「さぁ、迷うことなく世界へ旅立て!セレブリティの真の目的のために!またどこかで会おう!」
美とは勝ち負けではなく、大切な誰かに愛を持って接する心。その心で世界中の人々に美を施せば、やがて争いは無くなり、世界は平和へと近づく。それが“セレブリティ”の真の目的なのだ。
美を求める旅に、決して終わりはない。
ビューティ★ボーイズたちは、それぞれにこの“セレブリティ”から世界へと旅立って行く。
みんな、とびっきりの笑顔と愛を胸に抱いて・・・・・