Symposium

特別企画「ジャンプSQ.」誌面連動!
ミュージカル『憂国のモリアーティ』スペシャル座談会

脚本・演出/西森英行&
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役/鈴木勝吾&
シャーロック・ホームズ役/平野良

ジャンプSQ.8月号に掲載された『モリミュ』首脳陣の座談会より、本誌には掲載しきれなかったトークを特別にご紹介。『モリミュ』を愛する3人の熱き想いを、誌面と合わせて感じてください!

役者と演奏者──両者の息が揃わなければ決まらないポイントを、あえて作る

ミュージカル『憂国のモリアーティ』スペシャル対談

──まずは初演を振り返って、特に苦労されたのはどんなことでしたか?

平野 やっぱり歌ですね。僕はミュージカル出身ではないので、昔から歌にはコンプレックスがあったんです。例えばシャーロックがジョンと出会う超名シーンは、歌を通して観ている方に高揚感を伝えられなければいけません。そういった、“歌で感情を伝えること”が一番苦労したところだと思います。

鈴木 良くん、高揚感出てましたよ。(歌真似しながら)「♪暖炉にくべちまってもいいけど~?」。

平野 (笑)。

西森 やってたね(笑)。

鈴木 舞台裏で、みんな真似してたから(笑)。僕も挙げるなら、やっぱり音楽面ですね。単純に難しい楽曲が多かったですし、ハモりも多いんです。それに、楽器がピアノとヴァイオリンだけというのもかえって難しくて。

平野 ベースに当たる楽器が入ってこないからね。以前、ピアノとパーカッションだけのミュージカルをやらせていただいたことがあるのですが、「パーカッションだけでこんなに音の表現ができるんだ!」と感じたし、音の“ハネ感”を助けてもらえたんですよ。

ピアノとヴァイオリンはどちらもクラシカルで似た雰囲気を持つ楽器だから、クラシカルに寄せ過ぎても、逆に協調しないのもダメだよな…というバランス感は、稽古中からずっと探っていたところでした。

鈴木 あと、ダイナミズムを出すにはどうするかという課題もありましたね。伴奏に合わせたほうがいいのか、役者側で物足りなさをカバーしたほうがいいのか…。公演を終えてDVDを観返しながらずっと考えを巡らせていましたし、今でも正解を模索しています。

そのほかだと、個人的には“音域が上から下まではいどうぞ!”という感じで(笑)。

平野 勝吾くんは本当にキツそうだった! 音程の振り幅が一番広かったもんね。

西森 すごかったね。

鈴木 そうかもしれないです。1幕では高音で歌った曲(『ノアの方舟にて』)を、2幕のOP(『幕開き』)ではキーを下げて歌う、なんていうのもありましたし。でもそれも全部、苦労というよりはミュージカルの表現としていろいろなことに挑戦させていただけたな、と感じています。

──西森さんはいかがでしょうか?

西森 僕自身ミュージカルが大好きですし、実家が音楽畑で、正月に家族が集まるとみんなで合奏するような環境で育ったんですよ。

鈴木平野 すごい!

西森 だから、ピアノや弦楽器の魅力は元々十分知っていました。そのなかで、今回ミュージカルとして大切にしたのは、演奏者の方にも“演者”になってもらうということ。これは、グランドミュージカルのオーケストラピットだとなかなかできないことなんです。

そのために、「人形浄瑠璃」のように演奏者さんと俳優さんがリンクする部分を作ってみました。ウィリアムチームはピアノ、シャーロックチームはヴァイオリンと決めて、両者が息を合わせなければ決まらないポイントをあえて入れる。そうすることで、“みんなが今存在するからこのシーンが成立する”という場面を作ることを大事にしました。

また1幕切れも2幕切れも、ウィリアムが拳をキュッと握り締めると音楽が止まるようにして、指揮者のように彼が物語を支配し、あらゆるプランを誰よりも見通し、導いていることを演劇的に見せたかった。そういう要素を入れて、とにかく徹底的に実験してみようと思っていました。

平野 実験と言えば、シャーロックが何かを発見したときにヴァイオリンの音を鳴らしていたのは、最初は試しにやってみたんです。でも、そうしたシーンを積み重ねることでクライマックスの(ジェファーソン・)ホープの場面で、ヴァイオリンの音がシャーロックの気持ちとしてお客さんに聴こえてくるようになると気づいて。

音と感情をリンクさせてることで、最終的にセリフを言わなくても音だけで心情が伝わるように作ることができた。それが新鮮で楽しかったです。

──なるほど。初演はそうやって実験を重ねながら作り上げていったのですね。

西森 演出家として言うと、『憂国のモリアーティ』は言葉の奥に隠された感情が緻密にセットアップされた作品なので、単純に字面通り脚本にしたところで成立しない…という恐怖がありました。それこそウィリアムもシャーロックも「裏ゼリフ」…つまり、本心ではどう思っているか分からないような言葉をよく口にしますよね。

俳優さんが「裏ゼリフ」を演じるときに重要なのは、そのセリフの裏にどんな心情を隠しているのか?ということを本人がきちんと掴んでおくこと。そうしないと、あっという間に芝居が空中分解してしまうんです。表面上のセリフとそこに隠された感情を、ひとりの人間として成立させられるのかは、演出側として気にしていた点ではありました。

平野 確かに、そこは僕も意識していました。

西森 例えば、モリアーティ兄弟が歌で過去を回想するシーンや、シャーロックがホープに対する気持ちを吐露するシーンで、キャラクターたちは至極理知的でロジカルな喋り方をするけれど、そんな彼らも心中に何かしらの想いを抱えているわけで。では、その想いとは一体何なのか…。そこを、チーム全体で掘り下げ、方向性を定めることができたと思います。

役者陣からの意見で出来上がった、三兄弟での一曲

ミュージカル『憂国のモリアーティ』スペシャル対談

──特に仕上がりに時間をかけた楽曲を挙げるなら?

平野 僕は『推理合戦』と、ジョンと出会う『名推理』。あそこのテンポをいかにシャーロックらしく崩すかは、最後の最後まで考え続けたことでした。

それから、本番で少しずつ変化していったのが、ホープへの歌『至高の誘惑』。これまで「シャーロック・ホームズ」という人物はどの作品においてもあまり感情を出さない人というイメージでしたが、『憂国のモリアーティ』におけるシャーロックは感情を表出させているんです。そのため、次第にホープへの想いを乗せた歌へと変わっていきました。

勝吾くんは絶対あの歌でしょ、兄弟で歌った『三兄弟の秘密』。俺、公演期間中、舞台裏で5万回くらい聴いたもん!

一同 (笑)。

平野 朝、楽屋であの歌声が聴こえてくると、「ああ勝吾くんが入ったな…」って分かったから。

西森 そうそう、「♪罪を背負っても~」って聴こえてくるんだよね(笑)。

平野 「このレコード壊れてんのかな!?」と思うくらい、裏でず~っと歌ってたよね。

鈴木 自分でもいつになくアップしていたな、とは思います。あの曲単発だったら十分出せる音なんですけど、実際にはあの曲に至るまでの流れ含めてがハードだったので…。

平野 そうだよね。あの曲だけで7~8分はあるんじゃない?

鈴木 そうなんですよ。ウィリアムがダブリン男爵邸で椅子から立ち上がって歌い始めてから、ダブリン男爵を倒す曲(『裁き』)をやって、さらに『三兄弟の秘密』が入って。しかもその間にも芝居パートも入るので、「ここはしっかりやらなければ!」と気合が入るシーンでもありました。なので、公演が始まってからも毎日毎日練習していましたね。

西森 『三兄弟の秘密』は、稽古が始まってからできたんだよね。元々原作とは時系列が異なっているのですが、「ウィリアムたちの過去シーンを絶対にミュージカルでやりたい!」と僕がゴネたんです(笑)。

じゃあどうしようかと考えて、ダブリンを追い詰めるシーンで過去の回想を歌うことにしたんです。そしたら、テーブル稽古のときに勝吾たち俳優陣が「何か足りないんじゃないか?」と言ってきてくれて。

平野 原作を熟読している人には伝わるけど、そうじゃない人が観るのであれば、何か足りないってなったんだよね。

鈴木 そうなんですよ。

西森 僕としては「よくぞ言ってくれた!!」という気持ちでした。

鈴木 想像以上の大ナンバーに仕上がりましたけどね(笑)。

西森 奇跡の高音にね(笑)。でもあれによって、俳優さん側もお客さま側もキャラクター造形が伝わったんですよ。だからとてもメモリアルな出来事でした。何よりあのナンバー、カッコよかったしね~!

鈴木 自分で提案しておきながら、大変でしたけど(笑)。でも、自分で自分の尻は拭けたかな、とは思います。

西森 “何となく”では辿りつかない、キャラクターや作品を深掘りしないと出てこない視点でした。だからすごく貴重なことだったし、僕のなかではあそこでこのチームが一段と跳ねた感じがしました。

──では、今だから話せる初演時のエピソードをお願いします!

平野 ダブリン男爵役の山岸(拓生)さんが、あんなに傍若無人に見えて日替わりシーンでずっと小刻みに震えてました(笑)。

一同 (笑)。

平野 あの先輩、心配性じゃないですか?

西森 うん、心配性(笑)。

平野 舞台の上で勢いよく芝居しているように見えて、実はずっと小さく震えてるんですよ。毎回裏で「今日はこんなのをやろうかな」と確認されるんですけど、僕はその場で頭を回転させて生まれた芝居のほうが笑いに直結すると思っているから、お笑いシーンはなるべく打ち合わせしないで臨むようにしてるんです。でも山岸さんは毎回確認してくるので、「いいですいいです、直前に言うと俺もいろいろ構えちゃって、跳ねる笑いじゃなくなっちゃうから!」とかやりとりしていました(笑)。

『モリミュ』は“剣豪”揃いのカンパニー

ミュージカル『憂国のモリアーティ』スペシャル対談

──鈴木さんと平野さんは本作で初共演となりました。役者として、今はどんな印象を抱かれていますか?

鈴木 良くんはものすごく器用な方という印象が増しましたね。演劇をロジカルに捉え、それを体現している人。と同時に、エンターテインメントであることも忘れない。演劇を形作る俯瞰的な目線と、自分の役を演じる主観的な目線、そのふたつを同時進行させるスキルと魂がある人です。僕はそこが不完全なときもあるので。

平野 勝吾くんは、思っていたよりも5倍は努力家でした。もちろん、努力しているんだろうなとは思っていたけど、お客さんとして観ているときの勝吾くんは、「この人何でもサラッとやるんだろうな~」という印象だったの。でも今回見ていたら、むちゃくちゃ努力の人で!

西森 そうそう。

鈴木 (サラッとは)できないんです(笑)。

平野 ノートにぐわ~!って書き込むしね。居酒屋で飲んでいるときでさえ、「その考えいいですね!」って書き出すくらい。

西森 すごいよねえ!

平野 今書く~!?って(笑)。そのくらい、本当にストイックな人です。公演中止になってしまいましたが、今作の前に稽古していたミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』の現場でも、考えては書いてをずっと繰り返していて。まさに“思考の人”。思考し続けて、一回も止まらないという印象ですね。

西森 あぁ~、そうね。

鈴木 でも今言ってたことの裏で、“セカンド良”による恒例の“演劇駄目出し大会”があるんですよ(笑)。

──というと?

鈴木 飲みの席でお酒が進んできた頃に、“セカンド良”から本気で駄目出しされるんです。「勝吾くんさ、いつもめっちゃ書いてるよね?」と聞かれて「はい、書いてます」と答えると、「止めな?」って。

一同 (笑)

鈴木 「思ったことが消えちゃう前に書いてるんです。そうすると整理もできるし…」って言うと、「それ止めな。俺の台本、真っ白だよ」って。

一同 (爆笑)

鈴木 「その場でインプットするんだよ、勝吾くん!」と。僕も「そっかぁ…!」と思うんですけど。でも翌朝、良くんはそのことを覚えていないんです(笑)。

平野 いや~ごめんなさい、覚えてないんですよ(笑)。でもね、いろんなタイプの役者さんがいますから! 戦い方はそれぞれ違うからね。深夜の僕は、ちょっと饒舌だったんだなぁ…(笑)。

鈴木 翌日、「良くん、昨日はありがとうございました」と挨拶すると「…俺、またやった…?」って言うの(笑)。

平野 いや、分かるの。朝、勝吾くんが「あ…昨日はありがとうございました…」って普段より控えめに来るときは、俺絶対昨日なんかやらかしたんだな!?って。だから「ごめんね~」と謝るんですけど。

鈴木 でも別に、辛辣だったり何かを否定したりするとかじゃないですから。それこそシャーロックみたいに、「だったらこうしなよ」というレッスンがセットで付いてくるんです。だから僕も「なるほど!」と思えます。

──西森さんは、役者としてのおふたりにどんな魅力を感じていますか?

平野 この間、西森さんとネット配信番組に出演したとき、「このふたりは扱い辛くないのか、聞いてみたい」というコメントがありましたよ(笑)。

一同 (笑)。

西森 ふたりとも、芝居に対して一家言あるんですよね。ちゃんと自分の考えもビジョンも持っている。だから「このほうがいいんじゃないか?」とか「どうしてこうなるのか?」と、現場で投げてくるんですよ。それが、「なるほど」と思わされる反面、こちらの穴を突いてくる指摘でもあるから、受け手によっては「なんでわざわざ物申すんだろう? 現場をスムーズに進めようとしているのに…」と思われる人もいるのかもしれません。でも僕ね、そういうの大好物なの(笑)。

一同 (笑)。

西森 そうやって発言してくれると、こちらも「じゃあそれについて考えてみよう!」と思えるから。

ふたりとも天才肌で、僕が彼らの芝居について何かコメントしたときには、既に自身の修正点が分かっているんです。しかも、僕の想像以上のもので返してくれる。そういうところが共通していると思います。そしてこのカンパニーには、ふたり以外にもそういうタイプの役者さんがぞろぞろ揃っていて。だから、『モリミュ』って“剣豪揃い”なんです。

そんなチームだからディスカッションが面白かったですし、「今日はみんな何を出してくるんだろう!?」とこちらが楽しみになっていました。

平野 嬉しいな。そういう方が演出家さんで、ほんとによかったよね。

鈴木 はい。安心して付いていけます。

平野 僕以前、千秋楽を終えた後にスタッフさんから「本当にどうでもいいことについて、細かいよね!」と言われたことがあって。

一同 (笑)。

平野 すごいショックだったんですよ! だって、俺にとっては全然どうでもよくないことだったから。

鈴木 うわ~、分かる分かる。

西森 うんうん。

平野 僕としては、気になったところを滑らかにしたつもりだったんだけどなぁ…って。

鈴木 何に重きを置くのかは、演出家さんによっても違いますからね。打ち上げで「お前はなぁ」って言われるの、僕もすごく分かります。

西森さんは「真摯に諦めが悪い」

ミュージカル『憂国のモリアーティ』スペシャル対談

──では、鈴木さんと平野さんから見た、西森さんの脚本・演出ならではの魅力や「らしさ」は何でしょう?

鈴木 僕は本作で初めて西森さんとご一緒させていただいたのですが、やっぱり脚本と演出は同じ方であることが演劇にとって一番いいなと感じました。そこが違うと、クリエイティブな作業が大変になることもあるんです。その点本作では、西森さんに脚本についてたくさんお話を聞けたのがよかったなと思っていて。

なぜかというと、これは僕が西森さんらしさを感じる部分なのですが、脚本の幹がものすごくしっかりされているんです。「役者にこういう芝居をして欲しい」という意図が脚本のなかに提示されているから、僕たちはキャラクターとしてそこに生の息を吹き込むにはどうするか、というお話をさせてもらえる。役割分担がきちんとできているな、という印象を受けました。

演出面でも「こういうことをやりたいんだ」という意思を明確に持っていらっしゃるから、「それであればこうですか?」「あえてこう見せるのはどうですか?」と提案もしやすい。僕の、いわゆる面倒くさいと言われる性質ともマッチしている感じがします(笑)。昨日も、西森さんと5時間も電話していて。

西森 夜中にね。「演劇ってさ~!」って(笑)。

平野 今日取材で会うのに、ですよ? すごいよね!(笑)

鈴木 本作でしかご一緒していないですけど、骨組みをしっかりと作ってくださることで、ものすごく安心して飛び込んでいける感覚がありました。それに、西森さんは裏付けされた知識もすごいんですよ。

平野 僕は過去に2作品でご一緒させていただいているのですが、最初の印象は経歴通り「先生っぽい!」でした。ダメ出しやディレクションの伝え方が非常に分かりやすいんです。そのうえバランス感覚もピカイチなので、作品ごと、座組ごと、役者のタイプごとに言葉や口調を細やかに変えながらティーチングしているのを見て、すごいなと思っていました。だから『モリミュ』に関しては、完全に西森さんを信頼しきったノンストレスな状態でやらせていただけていました。

鈴木 あとは昨日も西森さんにお話ししたんですけど、西森さんは“真摯に諦めが悪い”。

平野西森 (笑)。

鈴木 もう出来上がってはいるものの…という段階であっても、もっと良くなると分かっていらっしゃるから、細かなところまで追求するのを諦めない。しかもそれを、今良くんがおっしゃったみたいに丁寧に相手に教えて、最後の最後のところまで引っ張り上げてくださる方なんです。

──西森さんを筆頭に、『モリミュ』は素敵なカンパニーであることが伝わってきます。

鈴木 ここ最近稀に見るくらい好きなカンパニーなんですよね。個性豊かでそれぞれ価値観も違いますけど、最終的に同じ方向を向いていて。それも演出が西森さんだったからこそだと思います。西森さんが諦めないで僕らの声を拾い続け、ミュージカル『憂国のモリアーティ』という演劇を作り上げてくださった。

平野 僕とか勝吾くんって、思ったことをすぐワーッ!と言ってしまうんですけど、西森さんはそれをフィルターに通して、かつ時期を見計らいながら調整して出し直してくださるんですよね。すごく助かります。

鈴木 僕ら、1言われたら10返しますからね(笑)。

平野 (笑)。それに、アンサンブルのみんながよかったというのもありますね。今作でも、半分以上同じメンバーが集まってくれて嬉しいです。もともと、「プリンシパル(主役)」と「アンサンブル」という言葉で分けるのは嫌だ、という話はみんなでずっとしていたんです。「アンサンブルだから…」という心持ちで本作の稽古場にいてほしくないし、アンサンブルの方がお芝居するときも、「これでいいや」という妥協は許さない、という作り方をしていました。それがお客さまに伝わったのが、また嬉しくて。

鈴木西森 うんうん、嬉しいね!

平野 「アンサンブルがすごかった」という感想を見たときに「そうなんです、全員でやったんです!」って。だから今回もまたご一緒できる方が多いのが、今から楽しみです。

西森 前作は、言うなれば「ウィリアムが大衆の目を覚まさせる話」でした。それを体現するのはアンサンブルキャストが演じる大衆、イコール市民の人たちであり、『憂国のモリアーティ』は、そんな彼らが物語を通して心動かされるまでを描く物語。そしてその市民の存在が、ウィリアムやシャーロックが奔走する理由に繋がってくるわけなんです。

良が、稽古の早い段階でその軸を明確にするのが大事だと言ってくれたからこそ、僕も「なるほど!」と納得してディスカッションしながら進めていけました。

これほどまでに奇跡的なチームは、ありがたくもあり珍しい幸運です

──Op.2では、アイリーン・アドラー役として大湖せしるさん、マイクロフト・ホームズ役として根本正勝さんが新たにカンパニーに加わります。

平野 根本さんとは今回初共演になりますが、数年前に一度後輩を交えた食事会でご一緒させていただいたことがあるんです。そこで初めてご挨拶したのですが、お互い「いつか共演したい」と思っていた相手だったし、周りからも「未共演なんて意外だね」とも言われていて。だから今回、満を持してご一緒できて本当に嬉しいです。

鈴木 そうだったんですね、よりによって兄弟役じゃないですか。

西森 ねもっちゃんは一度一緒にやらせてもらったことがあるんだけど、すごくちゃんとしている人。

平野 喋るだけで伝わってきました(笑)。

西森 そうでしょ。それに芝居に対しても誠実だし、考え方も大人。だからマイクロフト役にピッタリだと思っています。僕にはもう、ねもっちゃんのトーンでマイクロフトが喋っている音が聴こえてる。

鈴木 へぇ~! 僕まだ想像できてないです。早く飲みにいきたいな~! 大湖さんもシュッとされた美しい女性ですし、彼女を通してアイリーンのいろんな表情を見られるのが今から楽しみですよね。

──開幕を迎えるのが待ち遠しいです!

鈴木 キャストみんながこの作品が大好きで、本当に大事に想っているんです。初演からさらにグレードアップしたキャスティングのもと、必ずまた皆さんのご期待を上回る作品を、全員で作っていけたらと思います。

平野 初演よりもさらにブラッシュアップして、10人中ひとりが気づくかどうかくらいのギミックがあるレベルまで、お芝居を追求できたら楽しいなと思っています。

少し話が逸れますが、昔僕が駆け出しだったとき、全然お金がなくて、コンビニで100円のパンを買うか30分迷った挙句、結局何も買わずにお水でお腹を膨らませる…といった時期があったんです。そうした経験もあって、お金を払っていただくからには、こちらは命を与えなければいけない、と思っているんです。

本作にはその想いを共有できるメンバーが集まっていますし、そんなカンパニーで作品を作り上げるのが楽しみです。皆さんにもぜひ劇場で、その想いを感じていただけたら嬉しいです。

西森 前作は言うなれば、剣豪たちが集まって「じゃあ一緒にやりましょうか」というところからスタートを切りました。それが今作では、剣豪たちがすでにクラウチングスタートの体勢に入っているところから稽古を始められる…そんな強みがあると思っています。それを見越して、台本や音の構成、演出も、前回よりグンとハードルを上げて準備しました。ふたりを筆頭に、剣豪たちがどう作品と向き合うのか、その結果を見ていただけるよう動くことが、僕の大事な役割です。

実は演劇業界にいるなかで、これほどまでにチームが上手く噛み合い、いい形で作品を作れることって、ものすごくありがたくもあり、奇跡的なことなんです。その幸運を大切にしながら、今いろんな苦しい想いを抱えていらっしゃる方々に「やっぱり演劇って、心を豊かにする大切な場所なんだ」ということを感じていただき、ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2を見届けていただきたいなと思っています。

(了)

取材・文=鈴木 杏

ミュージカル『憂国のモリアーティ』スペシャル対談