「夢を叶えるために、私はこの学校へ来たの…」AAAに合格した若者たちに立ちはだかる次なる難関とは?

 「おめでとうございます。オーストラリア・アート・アカデミー(AAA)へようこそ!」
オーストラリアでもっとも有名な芸術学校AAAに、留年という言葉はない──。入学式の祝辞と共に校長が口にした学年末の強制退学が、生徒たちに課せられた最初の難関。
入学した嬉しさに浸っている間もなく、1年後彼らには成績が振るわなければ退学に追い込まれるという、過酷で恐ろしい現実が目の前に立ちはだかっていた。

 オーストラリア・バレエ団のプリマになることを夢見るダンス科のミッシェル。初日の授業で驚くべきダンスの才能を披露する彼女に、周囲の学生は嫉妬心を燃やし、孤立を余儀なくされることに。しかし、ミッシェルの純粋さとダンスの才能に驚嘆したダンス科2年のカレンとは、面倒見の良い姉のような存在として親しくなった。ところがある日、金銭的なトラブルを抱えることになったミッシェルは、カレンの忠告も聞かず高収入目当てで危ないナイトクラブで働き始め、荒れた生活が始まる。

 端正な顔立ちと自信に溢れた物腰で、カリスマ的な人気を得ているウェイド。一方、日本からオスカー俳優への夢を掲げて留学してきた隆は、誰よりも勉強熱心なクラスの人気者。そんな隆に夢中になり、自分の映画に出演するよう誘惑するウェイドの魅力にはまった隆も、自分が彼にとってのミューズ(女神)だという確信を得て映画製作へ没頭していく。演劇の上演会で主役に抜擢された隆だったが、本番の舞台で同級生に思わぬ罠にはめられてしまう。ウェイドもまた、自作の映画が盗作だと疑われ、教官にリールごと没収されてしまうのだった。

 入学早々、そのルックスとアバンギャルドな作風で一躍注目を浴びる存在になった美術科の日本人留学生・千穂。母親から強制的に入学させられたことに反抗、AAAが優秀なエリート校であることにすら気付かない彼女は、学校から追い出されようと決心。ふとしたことで知り合った音楽科のマシューの気の弱さにつけ込んで、計画を実行に移す算段を立てるのだった。盲目の母親に喜んでもらうため日々努力を重ねるマシューに対し、いつの間にか特別な感情を持つようになる千穂。ところが自分の思惑とは裏腹に、その才能は絶賛される。しかし、彼女の絵を許可なく売った教師に腹を立てた千穂は、マシューのオーケストラの発表会を見に行く直前、教師の絵に真っ赤なペンキをかけてしまう・・・。

 ついに中途退学勧告の日がやってきた—————。
それぞれ失敗をしてしまった5人は、退学させられてしまうのか—————。


「Academy アカデミー映画評」

映画ジャーナリスト 野島孝一

この映画を見て思い出したのがアメリカ映画の「フェーム」だ。ニューヨークの芸能学校に入った若者たちが将来のスター目指してがんばるが、挫折する者も出てくる。そのオーストリア版ともいえる「Academy アカデミー」はAAA(オーストラリア・アート・アカデミー)という架空の総合芸術学校が舞台になっている。AAAはメルボルンに実在するVCA(ヴィクトリア・カレッジ・オブ・アーツ)をモデルにしている。

脚本、監督のギャヴィン・ヤングスなどVCAの出身者がスタッフや俳優にいて、彼らの実体験が映画の基になっているようだ。冒頭で女性校長が、『この中の半数は途中であきらめることになるでしょう』とオソロシイことを言っている。つまり落ちこぼれると強制中退させられるのだ。そこが入りにくく出やすいといわれる日本の大学とはえらく違うところだ。観客は彼らが果たして無事に全うできるのかとはらはらしながら見守ることになる。

日本からの留学生役で、モデルで女優の高橋マリ子と杉浦太陽が出演している。高橋マリ子はアメリカ生まれとあって英語も達者なものだ。彼女が演じている千穂は美術科に入ったが日本に帰りたくて強制退学されたがっている。そのためにいろいろドジをやるのだが、逆に評価が高まってしまうところがおかしい。ド派手な髪型と服装の高橋マリ子はキュートで、なかなか魅力的だ。杉浦太陽が演じている隆は、演劇を学ぶまじめな青年だ。しかしゲイの映画に誘われて運命が狂う。

杉浦太陽は交通事故遺族の怒りを映画化した「0(ゼロ)からの風」にも出演している期待の若手で、与えられた役をしっかりこなしている。ほかにバレリーナの才能がありながら金ほしさの怪しげなバイトで崩れてしまうミッシェル(エリカ・バロン)などのエピソードがあり、彼女が踊るダンスシーンも魅力的に作られている。オーストラリア映画はニュージーランド映画と並んで注目を集めている。ニュージーランド出身のジェーン・カンピオン監督がオーストラリアで映画を学んだことも知られている。

最近ではムラーリ・K・タルリ監督が19歳で作った「明日、君がいない」(原題2:37)がカンヌ国際映画祭で上映されセンセーションな話題となった。「Academy アカデミー」のギャヴィン・ヤングス監督も映画の中にユーモラスな着ぐるみを登場させたりして、ジム・ジャームッシュばりのとぼけた味を狙っている。躍進オーストラリア映画界で今後の活躍が楽しみだ。

日本人の若者の中には日本にいるより海外に留学したほうが楽だと考えている人もいるだろうが、そんな甘い考えは通用しないと知るだろう。落ちこぼれといわれてもあきらめないで夢を追う若者たちには、すがすがしい涼風が吹いている。