原作・監修を手掛ける赤川次郎先生×赤川次郎作品の開発を手掛ける金沢十三男
第1弾 DSと「月の光」

『赤川次郎ミステリー 月の光 —沈める鐘の殺人—』発売決定記念、「スペシャル対談」が実現!
その模様を3回にわたってお届けします。

—今回DSで「夜想曲」に続き「月の光」が発表されましたが、なぜDSというハードを選んだのですか?

金沢 今回のプロデューサー(以下中野P)から移植の話を聞いて、今DSが好調ということで、以前PSで「夜想曲」を発売した頃にその市場が似てきているな、と。ですので、DSを選んだというより、そこにいるユーザーを選んだという感じでしょうか。幅広い年代に親しまれているプラットフォームだからこそ、というのが大きな理由です。以前よりもこういったゲームを楽しんでくれるユーザーが増えているのではないかと思います。

—夜想曲が発売されて販売も好調だということですが、その結果を受けての発売というところもあるのでしょうか。

金沢 DSの「夜想曲」の話がはじめあったときは、僕はどちらかというと「月の光」を発売して欲しかったんですね。というのも、「夜想曲」を昔発売したときには、たくさんのユーザーに受け入れられているという印象が本数的に見てもありました。
しかし、「月の光」をPS2で出したときには、プラットホームの変化に合わせてユーザーが変わっていたようで、本数的にも思っていたほど伸びなかったんですね。しかしながら作り手からすると、クオリティは「夜想曲」を超えている自信があった。だから「夜想曲」の話があった時に「月の光をはじめにやってくれ」と言ったのですが、今回の中野Pに「それは夜想曲の次に考えますから」と後回しにされました(笑)。
ですので、「夜想曲」より今回の発売のほうが非常に思うところがありますね。是非幅広いユーザーの方に遊んでもらいたいと思います。

 

—赤川先生は今回DSで「月の光」が発表されることにどのような感想をもたれましたか。

赤川 DSというのは、とてもソフトの幅が広くて色々なものが出ていて、ゲームの買い方が変わってきたな、というのを感じます。ただ遊ぶだけじゃなくて色んなことに役立つような小さな百科辞典としても使えるし、そういう風に使っている人も多いと思うので、ゲームファンだけでなくそういう人もちょっとやってみようかな、という気になっていただければ嬉しいかな、という気はしますね。
パッケージは今日初めてみたんですが(笑)

—前作「夜想曲」はプレイされましたか。

赤川 自分でやりだすときりがないものですから、原稿書かなくなってしまうので(笑)ちょっとやってみた感じでは音がクリアだったり、そういう点は前とは違う気がします。

今度の場合は「月の光」ということで、また「ピアノ演奏」が入っていたりするのでしょうかね。

—数ある赤川先生のベストセラーの中でなぜ「沈める鐘の殺人」を選ばれたのですか。

金沢 実は僕は、赤川さんのホラータイプの作品が好きで、始めのゲーム化には「魔女達のたそがれ」と「魔女たちの長い眠り」を選びました。2作目のときは、自分が作りたいシステムがあったので、それに合う作品を探して選びました。「月の光」は3作目なのですが、原作選びは非常に迷いました。ただ漠然と、学園ものにしたいということだけ頭の中にあって。ただ赤川さんの学園ものは有名なものが多いのですが、それを選んでしまうと、既に結末はみんな知っているものになってしまうからゲームの原作には選びたくなくて、できれば映画化やドラマ化されていないものを、と考えていました。でも、赤川さんの有名じゃない学園ものを探すのが非常に大変だったんですよね。
そんな中、恐らく300作記念パーティーだったかな、そちらに出席させて頂いた時に、赤川さんの本のリストが全部載っている小冊子がお土産で配られたんですよね。それを全部見て、全部読んで(笑)
その中でゲームになる、とかならないとかを繰り返していって。時間が結構かかりました(笑)
その中で一つ迷ったものがあって、設定はすごくいいんだけれども季節感が印象的過ぎる作品があって、それが「沈める鐘の殺人」でした。作中に「紅葉坂」という、学園に通じる長い坂があって、秋には紅葉で真っ赤になるという。
ゲームで季節感を出すのは結構タブーに近くて、発売が遅れたら大変なことになりますし、またユーザーはその季節に買うとは限らない。でも、発売した時期とゲームの季節が合っていればユーザーが買いやすいところもある。 「魔女」も「夜想曲」も舞台は「深い山の奥」とか「森に囲まれた洋館」などの自然に囲まれた空間でしたが、季節感はあまり気にしなかったんです。多分、赤川さんも、潜在的にそういう隠蔽されたような空間を好まれている、というのがあると思うのですが。
「月の光」で季節感の強い原作を選んだのは、自分の中ではかなり冒険でした。結局、紅葉とは全く関係ない5月に発売されたんですけどね(笑)
でも出来るだけ季節感を出さないように、パッケージや宣伝の見せ方も工夫したのですが、今回DSのパッケージには紅葉をあしらっているので、中野Pはチャレンジャーだな、と思いました(笑)

—その原作を選ばれた時、赤川先生はどう思われましたか。

赤川 どれがゲームにしやすいかとかは、普段ゲームをやらないので分からないので(笑)こちらから推薦してあげるわけにもいかない。たくさん読んでいただいて申し訳ないですね。

金沢 原作本を持ってきた時もかなり驚かれていましたよね。

赤川 これがゲームになるのか、っていう(笑)

—赤川先生にとってはピンと来なかったんですね。

赤川 そうですね。ただ「魔女たちの長い眠り」や「殺人を呼んだ本」も絵になりやすい世界なのかな、というのはありますね。あとは現実的にそういう場所を探すのが大変だろうと思いました。今回の「沈める鐘の殺人」は、「湖に鐘が沈んでいる」というヨーロッパに昔からある伝説をもとにしているので、ヨーロッパ的な雰囲気が必要ですから、そんな場所が日本にあるのか、という気はしましたけどね(笑)
ロケハンは大変だろうなと思いました。ただ自分がやるわけじゃないので(笑)

金沢 「夜想曲」の時は洋館を探すのが大変でしたが、「月の光」では学園と紅葉坂を3Dで作っているので、デザイナーたちにイメージを伝えて全て構築しました。舞台となる学園はヨーロッパ建築の雰囲気が漂っていたので…。

赤川 金沢さんは、本当に僕の小説をたくさん読んでくださっているので、そういう点は安心してお任せできました。あまり僕の作品を読んでいない方にお任せするのはやはり心配ですからね。誤解されるのではないか、という気がして。そういう点では金沢さんは僕よりも、僕の昔の本のことを覚えていたりするから有難い。

—では逆にこのゲームをやられてご自分で思い出すこともあるという。

赤川 細かい部分ではそんなこともありますね。

—実際ゲームでは、原作に加えて選択肢があり、色々な結末を迎えることがあるわけですけども、この様なゲームらしい遊び方はどのように感じられますか?

赤川 ゲームは、小説とはまた違う世界だとは思っていますので。それはそれで楽しめると思いますよ。小説だと読者が「自分だったらこうするのにな」という場面などもあると思いますが、その点、選択肢がいくつもあって物語が別の方向に展開していくのがゲームならではの面白さですね。受け取り方は様々だと思うので。
そういう点では安心しています。

—金沢さんを信頼されているんですね。

金沢 それだけプレッシャーもかかりますが(笑)

—原作を読み込んでさらにシナリオを膨らませているのですよね。

金沢 そうですね。やはり原作にない展開が出てきてしまうので、そこは赤川さんに確認したりして。「月の光」でも、原作ではやっていないことがあって、でもどうしても話の展開としてゲームではやっておきたい。そこで赤川さんに確認したら、快く「いいですよ」と言って頂いて。

—大きな変更のポイントは確認されているという感じなんですね。

赤川 ただ突拍子も無いような話は出てこないと思ってますから、宇宙人が出てきたりしたら困りますけど。

—基本的には原作の雰囲気を壊さなければ、という感じですね。

赤川 そうですね。