ユーザーが楽しめる、アートディレクションを
ゲームの絵づくりの基本を決める
アートディレクターの最初の仕事は、ゲームの“絵づくり”の基本となる部分を固めることです。プロデューサーが決めた大前提をもとに、ディレクターなどと意見を出し合いながら、そのゲームのルック(見た目の方向性)を決めていきます。例えば、リアルな世界観でいくのかアニメ調でいくのかなど、キャラクターを含めた絵まわりの初期設計を行います。
ゲーム開発に入る前に、プレイの操作性やゲームサイクルなどを検証するプロトタイプ(試作機)をつくりますが、絵まわりについてはそれとは別に「ビジュアルプロト」をつくり、ルックを詰めていくことがアートディレクターの役目です。とても重要な部分なので大変ではありますが、その中に自分がやりたい表現も入れることができるので、ワクワクしますし楽しいですね。ちなみに、『DAEMON X MACHINA』のアートディレクションには、自分が大好きなコミックやアニメのテイストを盛り込みました。
絵の中に込めたメッセージ
ビジュアルを通じて、ユーザーにメッセージを伝えられるのもこの仕事のおもしろさのひとつです。例えば、『DAEMON X MACHINA』のフィールドでは、廃墟となったビルから巨大な樹が生えていますが、最初の段階ではビルだけだったんです。しかし、それではいかにもありふれたルックなため、周囲とも相談をし、そこに緑を追加することにしました。その結果、「廃墟と巨木」というコントラストが生まれ、より魅力的な世界ができあがりました。巨木を入れたことで、「荒廃した世界だけれど、命は強いんだ」というメッセージも伝えることができたと思います。こうしたアップデートはキリがなく、どんどん時間がなくなっていくのが常です(笑)。
気になるデザインはクリップする
私がビジュアルプロトをつくる際、重宝しているのが日頃からストックしておいた「クリップ」です。学生時代に先生から「自分が見て、心にひっかかったものは、そこに優れた要素や自分の求めている何かがある。だから、デザイン的に気になるものはクリップしておくといい」という言葉をいただきました。それ以来、映画でもテレビでも、気になったものはどんどんクリップするようにしているんです。
ゲームをはじめとしたエンターテインメントのコンテンツは、ユーザーの目を引くビジュアルが必須です。「廃墟と巨木」のようなコントラストが強いビジュアルは、ユーザーの印象に残ります。私の蓄積してきたクリップは、こうしたシーンでも役に立っています。
Unreal Engine導入でワークフローが劇的進化
『DAEMON X MACHINA』では、制作面において大きな変化がありました。社内のコンシューマ開発で初めて「Unreal Engine」を導入したのです。もともと使いたいという声が現場からも上がっており、自社タイトルの開発でUnreal Engineが使えるということで開発スタッフのモチベーションが大いに上がりました。また、外部のエンジンでゲームをつくる、ということは大きなチャレンジでもありました。
ルックをまとめる際も、今作ではUnreal Engineを最大限に活用しました。タイトルにもよりますが、一般的にはコンセプトアートをまず描き、一枚の絵からルックを詰めていくというパターンがあります。しかし、今回はUnreal Engineをキャンバスのように活用したことで、いきなりゲームにやりたい表現を落とし込み、それを見て適宜修正をかけていくことで、最初からゴールに近いルックの検討ができました。
効率化・差別化も
これまではやりたい表現があった場合、事前にプログラマーと実装できるかを相談しなければいけませんでしたが、Unreal Engineでは自分でマテリアルを組んで試すことができるようになりました。例えば、背景に物体をスキャンするような演出を入れたい場合でも、マテリアルを自分でつくり、ブループリントで制御して対応することができます。フィードバックまでのフローも減り、時間も大幅に短縮することができました。
そうして検討された『DAEMON X MACHINA』のルックは、コミック・アニメ調へ舵を切ることになりました。Unreal Engineはフォトリアルが得意分野ではありますし、メカ物はリアルとの親和性が高くリアルであるほどカッコいいのですが、それでは他社と差別化ができないからです。
未経験のメカアクションゲームへの挑戦
『DAEMON X MACHINA』は、弊社では初めてのメカアクションゲームで、なかでも苦労したのが「今風のSFデザインにする」という点です。すでに映画やゲームの世界では多くの洗練されたメカが登場しておりCGも普及しているため、ユーザーの目が格段に肥えています。そんななか、古臭いデザインのメカをゲームに出しては商品価値がありません。
当初、デザインスタッフは皆、メカものの経験がなかったため、まずは洗練されたメカデザインを身につけるところから始めました。昨今のSF映画などからひたすらクリップし、模写やモデリングを重ねるなかで、「この部分はこういった構造になっているんだ!」と気づくことも多くありました。
『DAEMON X MACHINA』にはメカだけでなく銃器が出てきますが、ゲーム上の武器でも最低限押さえなければいけないルールというものがあります。握ったときに違和感のあるフォルムになっていないか、薬きょうの飛び出し方は不自然でないかなど、構造からデザインを学び、同時にSF的なかっこ良さのルールを皆で蓄積していきました。そうした苦労もあり、最後にはリテイクもほとんど出なくなり、おのおのが今までなかった新しいデザインを習得することができたと思います。
楽しみながら、遊び心のあるデザインを
こうして、苦労した末に完成した『DAEMON X MACHINA』では、さらにビジュアルのクオリティと遊びの部分を両立させる要素も入れ込みました。特に気に入っているのが、「歩き回れる拠点」です。ゲームの進行的には必要でないため、制作当初は明確に設定していなかったのですが、「自分の機体が見える、整備しているような場所があるといいよね」という意見があり、ゲームの世界観にマッチした拠点を設計しました。そんななかにも遊び心として、人体改造を行う部屋の前にあえて床屋のポールサインを置いてみたり、アイスクリーム屋などを置いています。ちなみに、ポールサインは海外のユーザーが見ても意味が伝わるか調べてから、取り入れました。
アートディレクションは、こうした“遊び”も入れることができるセクションです。偶然にも弊社のスローガン「『驚き』と『感動』を世界に届ける新しいエンターテイメントの創造」で掲げているような話になりましたが、アートディレクターとしていかにユーザーの想像の上を行けるか、遊び心を持って楽しみながらこれからも挑戦していきたいと思います。