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赤川次郎スペシャル対談-3

【赤川次郎ミステリー 夜想曲 —本に招かれた殺人—】
祝・発売記念!
赤川次郎(原作・監修)×金沢十三男(本作エグゼクティブプロデュサー)
スペシャルロング対談

【第3回目】

 ——赤川先生は、今年ちょうど500冊の本を出される節目の年とのことで、現在の心境をお伺いしたいのですが。

赤川 はるばるよくここまできたなという。我ながらよく働いたなと思います。でも、やはり書きたいものを書いてここまで来られたというのは幸せだったと思いますね。嫌な仕事はしないで済んだと思いますから(笑)。書きたいものだけを書いてきましたので。

 ——昔からペースが非常に速くて多作でいらっしゃるイメージありますが。

赤川 そうですね。一年間に5冊くらいのペースで本出していたのがずいぶん長く続きましたからね。20年くらい続いていたかな。ここ数年は少し落ちつきましたけどね。

 ——やはり何か書くための原動力と言うか、もっと書きたい、という気持ちが強いのでしょうか。

赤川 催促されるから、というところはありますけれど(笑)。

金沢 2000年を越えてから、文庫本でいうと500ページを越えるものがけっこうありますよね。

赤川 どうでしょうね。昔はひと月に600枚から700枚書いてきたのが、20年近く続いて、今はもう400枚くらいですね。ずいぶんペースが落ちちゃった。書きたいっていう気持ちはあるんだけど、ペン持ったまま寝ちゃうんですよね。机に向かって。それがやはりちょっと年とともに体力が衰えてきたのを感じますね。頑張りがきかなくなってきた(笑)。

 ——最近の作家さんはパソコンで書かれている方が多いようですが、先生は今でも自筆で書いてらっしゃるそうですね。そこがまず凄いですよね。

赤川 まあ年代からいってそうなんでしょうけど、やはり書いていないと文章のリズムが変わってしまうんですよね。昔サラリーマンだった頃に英文タイプを打っていたので、別にパソコンのキーボードを見なくてもローマ字入力はできますので、けっこう速いと思うんですよね。ただ漢字変換したりすると、文章の流れが止まってしまうんですよ。それがとても嫌で、最初の方ちょっとワープロも使ったことはあるんですけれども、やっぱり手で書かないとだめだと思いました。文体が変わっちゃうんですね。

 ——それはときどき聞きますね。携帯小説などが出てきてぶつ切りの文章が出てきたりとか。

赤川 携帯は画面で読める字数が限られているから、前の文章と後ろの文章が眼に入らないというのは書いていてとても嫌だったんですよね。やはり眼で見て、ある程度前の文章が眼に入っていないと書けないですから携帯で書こうとは思わないですけど、今の作家の方は携帯で書いちゃうと言うからすごいなと思うんですけれど。センテンスがどうしても短くなるんじゃないですかね。携帯で書いてると。

 ——携帯小説は携帯小説の書き方みたいなものがあると聞いたことがありますが……

赤川 僕は高校生の頃書いていた小説では、400字の原稿用紙一枚に、センテンスひとつで終わらないくらいの長い文章を書いていましたからね。

 ——書いていて途中でこの主語はなんだったっけ、ということになりそうですね。

赤川 それくらい装飾した文章を書くのがすごく楽しくて。形容詞とかなんかたくさん使ってね。今の文体とはずいぶん違いますけれども。

 ——それは読んでみたいですね。

赤川 そういうことがとても楽しかった時期もありましたね。
それはやっぱり携帯ではできないですよね。画面からどんどん見えなくなってしまうから。前の方の文章なんだっけ、ということになってしまうし。

 ——興味深いお話です。

赤川 手書きで汚い字で書いてますから。編集者はとっても苦労していると思いますけれど(笑)。

 ——構成の前後をごそっと入れ換えるときとか、パソコンの方が便利かなとも思うのですが、そんなことはないですか?

赤川 確かに手書きのものは、そう簡単に入れ替えはできませんけどね。そういったことをやりたい方はパソコンの方で書かれた方が便利ですよね。お芝居なんかを書かれる方はいいみたいですよね。場面入れ換えたりとか、台詞入れ換えたりとか。でもときどき停電になって何十ページ書いたのが全部消えちゃったとかいう話を聞くと恐ろしくて。書いたものはそう簡単になくならないから。

金沢 ファンクラブの会報に短編ものを書いてらっしゃいますよね。

赤川 ええ、ショートショートを。

金沢 あれ、原稿用紙そのまんま(笑)。

赤川 そうそう、そのままなんですよ。

 ——さすが金沢さん、良くご存知ですね。

赤川 ファンクラブの会員だけに一応読めるようにということで。ショートショート10枚くらいのを書いていて、それは僕の書いた原稿をそのまんま印刷してもらってやってるんです。そのときは、僕としても読みやすいように丁寧に書いているんですよ。そしたら読者の方から、あの文字を解読するのが楽しみですという手紙がきて、すごくがっかりした想い出があります。

 ——丁寧に書いているのに。

赤川 解読かーとか言われて。

 ——(笑)手書きならではのエピソードですね。けれども昔の三島由紀夫とかの生原稿が教科書に載っているじゃないですか。そういうのもパソコンの画面じゃ味気ないですしね。

赤川 最近の作家は将来、何とか文学館みたいなものを作ったときに、どうするんだろうなと思います。並べる原稿がないんじゃ。

 ——書簡集とかも電子メールだったり。

赤川 フロッピー展示しても面白くもなんともないしね。やっぱり手書きのものだとどういう風に直したかというのが分かるでしょ。それと自分で原稿用紙を後で見てもここのところは本当に気分がのって書いているなとか、ここらへんは苦労しているなとかって字を見れば分かるんだよね。

 ——宮沢賢治の原稿を見ていて、まず赤で修正、次に青で修正入れていて、こういう風に思考が変わっていったんだ、というのがわかるんですよね。

赤川 そうそう。僕のはほとんど推敲する時間がないので、書いたそのまんまで、あんまり直すことないんですけど。

 ——では、『夜想曲』の原作の『殺人を呼んだ本』も、ほとんど見直しされることなく一気に書かれたんですか?

赤川 直している暇がないっていうか、もう追われていますのでね、締め切りに(笑)。基本的には書いてあるそのまんまという形ですね。

 ——金沢さんはじめゲームのスタッフの方の方が、たくさん読み返しているかもしれませんね。

金沢 読んでいますね(笑)。

赤川 (笑)。確かにそうでしょうね。

 ——たくさん読まれてその伏線、選択肢……

赤川 詳しく読んでいただいて、そこから色々なお話を考えていただいて……

金沢 ボロボロになった初版を家に取ってあります(笑)。




 ——こんなにファンの方にゲーム化をしてもらって、原作本も喜んでいるかもしれませんね。

金沢 だといいのですが。

赤川 特に原作が、とても映像になるような話じゃないのでね。ゲームにすると言われたときに「えっ」と思ったんですけども。なるほど、こういう発想ができるんだという新鮮な驚きがありましたね。

 ——映像ではなくて絵もありつつ、想像力を働かせるところもありつつ、その中間でサウンドノベルというジャンルがすごく合っていたんでしょうね。

赤川 ゲーム中の題材そのものが「本」を扱っているので、またそれも面白いと思いますね。

 ——それではそろそろ。長い時間ありがとうございました。

赤川 ありがとうございました。

金沢 ありがとうございました。